ハラスメント対応では、事実確認の結果に応じて、注意・指導、配置上の措置、懲戒処分などを検討することがあります。
しかし、処分を行っただけで、ハラスメントの再発を防止できるとは限りません。
なぜなら、処分によって「何をしてはいけないか」は示せても、本人が「なぜその言動が問題だったのか」「今後、具体的にどのように行動を変えればよいのか」まで理解できるとは限らないからです。
特に、本人にハラスメントの自覚がないケースでは、処分を受けたことへの不満や納得できなさが残り、行動の改善につながらないこともあります。
また、管理職や教員等による厳しい指導などでは、本人は「部下の成長のために必要な指導だった」「業務上当然のことを言っただけ」と認識している一方、受け手との間で認識に大きなズレが生じていることもあります。
そのため、組織としては、必要な処分を行うだけでなく、本人が自身の言動を振り返り、問題となった背景を理解し、今後の具体的な行動につなげるための働きかけを検討することが重要です。
すべてのケースで個別研修が必要というわけではありません。
一方で、次のようなケースでは、本人への個別研修や行動改善支援が有効な選択肢となります。
① 本人にハラスメントの自覚がない
「そんなつもりはなかった」「指導の一環だった」「冗談のつもりだった」など、本人の意図と相手が受けた影響との間に大きなギャップがあるケースです。
この場合、単に「その言い方はハラスメントです」と伝えるだけでは、本人が納得できず、行動改善につながらないことがあります。
個別研修では、具体的な場面を振り返りながら、「自分は何を意図していたか」だけでなく、「相手にはどのように伝わった可能性があるか」を整理していきます。
② 管理職、あるいは指導者としての指導方法に課題がある
部下や後輩、学生・院生への指導そのものは必要でも、
・人格を否定するような言い方をする
・感情的になり、声を荒らげる
・人前で繰り返し注意する
・相手の事情を確認せず、一方的に叱責する
・「これくらい当然」という基準を部下にも求める
といった行動が繰り返される場合があります。
このようなケースでは、ハラスメントに該当するかどうかだけを伝えるのではなく、「適切な指導とは何か」を具体的な行動レベルまで落とし込むことが重要です。
③ 同様の問題を繰り返している
過去にも注意・指導を受けているにもかかわらず、同じような言動を繰り返している場合には、一般的な研修だけでは十分な効果が得られないことがあります。
本人が自分の行動パターンを十分に理解できていない可能性もあるため、個別に状況を整理し、「どのような場面で、どのような言動が起こりやすいのか」を本人と一緒に振り返ることが有効です。
④ 処分だけでは職場復帰・職場関係の改善が難しい
処分後も、本人が同じ職場で勤務を続けるケースは少なくありません。
その場合、「処分を受けたから、もう終わり」ではなく、今後の職場でどのように周囲と関わるのか、部下や同僚、あるいは学生等との関係をどのように再構築するのかまで考える必要があります。
特に管理職であれば、本人の行動変容は本人だけの問題ではなく、部署全体の職場環境や部下の心理的安全性にも影響しますし、教員であれば、学生や若手教員への指導・教育にも影響を及ぼし、教育・研究の場全体の環境や信頼関係を損なう可能性があります。
では、なぜ内部の人事担当者だけで対応するのではなく、外部専門家による個別研修を活用するのでしょうか。
大きな理由の一つは、内部の人事担当者と行為者本人との間には、どうしても「組織側と雇用される側」という関係性が存在するからです。
本人が「処分を正当化するための研修だ」などと受け止めてしまえば、表面的には研修を受けても、内面的な振り返りや行動変容につながらない可能性があります。
外部専門家であれば、内部の人間関係や過去の評価から一定の距離を置き、第三者として本人の話を聴きながら、行動上の課題を整理することができます。
1.本人が本音を話しやすい
直属の上司や人事担当者には話しにくい「納得できない」「自分だけが悪いとは思えない」といった感情も、第三者であれば話しやすくなる場合があります。
本人の認識や抵抗感を把握することは、行動変容を促す上でも重要です。
2.「責める研修」ではなく「行動を変える研修」にできる
個別研修の目的は、本人を一方的に責めることではありません。
「何が問題だったのか」だけでなく、
・なぜその言動をしてしまったのか
・相手にはどのように伝わった可能性があるのか
・どのような場面で同じことが起こりやすいのか
・今後はどのような言い方・関わり方に変えるのか
を具体的に整理し、本人が実際の職場で行動を変えられる状態を目指します。
3.人事担当者の皆さまの負担を軽減できる
ハラスメント案件では、事実確認、当事者への対応、職場環境への配慮、関係者との調整、再発防止策の検討など、人事担当者の皆さまの負担が大きくなります。
特に、行為者本人が「自分は悪くない」「組織の対応に納得できない」と強く反発しているケースでは、人事担当者だけで行動改善まで支援することは容易ではありません。
このような場合に外部専門家を活用することで、人事担当者が担うべき役割と、専門家が担う役割を分け、組織としてより冷静かつ継続的に再発防止へ取り組むことができます。
ハラスメント対応において、内部規程に沿って適切な処分を行うことは、もちろん重要です。
しかし、本当に組織が目指すべきなのは、「処分すること」ではなく、「同じ問題を繰り返さない職場をつくること」です。
そのためには、事実確認と適切な措置に加えて、行為者本人が自分の言動を振り返り、具体的な行動を変えていくための支援も必要になります。
特に、
「本人にハラスメントの自覚がない」
「指導のつもりだったと主張している」
「注意しても同じ言動を繰り返す」
「管理職や指導者としてのコミュニケーションに課題がある」
「処分後も同じ職場で勤務を続ける」
といったケースでは、一律の全体研修ではなく、本人の状況に合わせた個別研修が有効な選択肢となります。
人事担当者だけで抱え込むのではなく、必要に応じて外部の専門家を活用する。
それは、行為者本人を「罰する」ためだけではなく、本人の行動変容を促し、職場環境を改善し、組織としての再発防止につなげるための実務的な選択肢です。