ハラスメントの事実確認が完了し、会社としての対応方針や処分が決定した後、人事担当者が直面するのが、「本人に何を、どのように伝えるか」という課題です。
行為者本人への面談は、単に事実と処分を通知するための場ではありません。
本人が自身の言動をどのように認識しているのかを確認し、問題となった行動を具体的に理解させ、今後の行動変容につなげるための重要な機会です。
特に、「そんなつもりはなかった」「指導のためだった」「自分だけが悪いわけではない」と本人が認識しているケースでは、会社が一方的に「あなたの行為はハラスメントだった」と伝えるだけでは、本人の納得や行動改善につながらないことがあります。
処分と再発防止は別の課題です。
処分を適切に行った上で、本人が今後どのような行動を取るべきなのかまで具体的に伝えることが、組織としての再発防止には重要です。
行為者本人との面談では、感情的な非難や人格否定に陥らないことが重要です。
「あなたはハラスメントをする人だ」と人格を評価するのではなく、「どのような言動が問題だったのか」「組織としてどのように評価したのか」「今後どう変えてほしいのか」を分けて伝えます。
①「事実」と「組織としての評価」を分けて伝える
例えば、次のように伝えます。
> 「○月○日の会議で、部下に対して『○○』という発言をされたことについて、複数の関係者から話を聴いています。」
これは、確認された事実についての説明です。
その上で、
> 「会社としては、今回の発言やその場での対応について、当社のハラスメント防止に関する考え方に照らして問題があると判断しています。」
などと、組織としての評価・判断を伝えます。
「何をしたのか」と「それを組織としてどう評価したのか」を分けることで、本人が感情的な非難として受け止めることを防ぎやすくなります。
② 人格ではなく「具体的な行動」に焦点を当てる
行為者本人への指導で避けたいのが、人格そのものを否定するような言葉です。
例えば、
「あなたは最低だ」
「あなたは人の気持ちが分からない」
「あなたの性格に問題がある」
といった伝え方では、本人の防衛反応を強める可能性があります。
それよりも、
> 「今回のように、部下を他の社員がいる場で繰り返し叱責することは、当社として適切な指導方法とは考えていません。」
のように、問題となった具体的な行動に焦点を当てます。
これは本人を甘やかすためではありません。
むしろ、今後の行動を変えてもらうためには、「何が問題だったのか」を本人が具体的に理解できるようにすることが必要だからです。
③ 組織としてのスタンスを明確にする
行為者本人が「自分は悪いと思っていない」と考えている場合でも、組織としての基準を曖昧にしてはいけません。
例えば、
> 「当社は、職場におけるハラスメントを認めない方針です。その観点から、今回の言動については問題があったと判断しています。」
と、組織としてのスタンスを明確に伝えます。
ここで重要なのは、本人の納得を得ることと、組織としての判断を伝えることは別であるという点です。
本人が納得しているかどうかにかかわらず、組織として必要な指導・措置を行うことはできます。
④ 本人の言い分・認識も聴く
一方で、組織側の判断を一方的に伝えて終わることも適切ではありません。
本人には、本人なりの認識や事情がある可能性があります。
「そのとき、〇〇さんはどのような意図で発言したのですか?」
「今回の件について、どのように認識していますか?」
「会社からの説明について、確認しておきたいことはありますか?」
など、本人の認識を確認します。
本人の話を聴くことは、組織の判断を撤回することではありません。
「弁明の機会を確保すること」と「組織としての判断を維持すること」は両立します。
また、本人が何に納得できていないのかを把握することは、その後の個別研修や行動変容支援を検討する上でも重要な情報になります。
行為者本人に問題行動を理解してもらいたいからといって、強い言葉で責めれば行動が変わるとは限りません。
むしろ、本人が「会社から一方的に悪者にされた」と感じれば、防衛的になり、事実を否認したり、勤務先への不満を強めたりする可能性があります。
① 事実の伝達
【NG】
> 「被害者が嫌がっているんだから、あなたが悪いに決まっている。」
【適切な伝え方】
> 「複数の関係者から、〇〇さんの発言によって強い心理的負担を感じたとの話を聴いています。まず、当時の状況や〇〇さんの認識について確認させてください。」
「誰が悪い」という結論を急ぐのではなく、具体的な事実と本人の認識を整理します。
② 問題性の説明
【NG】
> 「あなたの性格に問題があります。」
【適切な伝え方】
> 「今回のような叱責の仕方は、当社が求める適切な指導方法から逸脱しています。」
人格ではなく、改善すべき具体的な行動を明確にします。
③ 今後の対応
【NG】
> 「もう二度としないですよね?」
【適切な伝え方】
> 「今回、なぜこのような言動になったのかを一緒に整理しましょう。その上で、今後どのような行動を取るのか、具体的に確認させてください。」
単に「もうしません」と約束させるだけではなく、再発につながった要因と、今後の具体的な行動を整理することが重要です。
実務上、人事担当者の皆さまが特に対応に苦慮するのが、
「自分は何も悪くない」
「相手が過敏なだけだ」
「指導しただけなのに、なぜ自分だけ処分されるのか」
などと、本人が問題行動を認めないケースです。
しかし、本人が認めないからといって、組織として事実認定や必要な対応ができなくなるわけではありません。
① 事実認定を本人の「認め・否認」だけに委ねない
事実関係については、
・関係者の証言
・メール・チャット等の記録
・録音・録画
・業務上の記録
・その他の客観的資料
などを踏まえ、組織として適切に判断します。
本人が否認していること自体と、事実が存在したかどうかは分けて考える必要があります。
② 「納得できない」と言われても、組織としての基準を示す
本人が「納得できません」と主張した場合も、感情的に言い返すのではなく、
> 「今回の判断について、〇〇さんがどのように受け止めているかは確認しています。一方で、ご本人の受け止めとは別に、会社としては当社の基準に照らして、この言動は認められないと判断しています。」
と、本人の感情・認識と組織としての判断を分けて伝えることが重要です。
③ 「反省させる」ことを目的にしない
行為者本人への対応で陥りやすいのが、「本人に非を認めさせること」が目的になってしまうことです。
しかし、組織が本当に目指すべきなのは、本人から「自分が悪かった」と言わせることだけではありません。
重要なのは、
「今後、同じような言動を繰り返さないためには、何を変える必要があるのか」
を本人が具体的に理解することです。
そのためには、反省を求めるだけでなく、本人の認識や行動パターンを整理し、必要に応じて個別研修やコーチング等の機会を設けることが有効です。
ハラスメント行為者への対応では、処分や注意だけで終わらせず、本人の行動変容をどのように促すかが重要になります。
特に、
・本人にハラスメントの自覚がない
・「指導のつもりだった」と考えている
・自分の言動が相手に与える影響を理解できていない
・過去にも同様の注意・指導を受けている
・管理職として部下への接し方に課題がある/教員として学生への接し方に課題がある
・処分後も同じ職場で勤務を続ける
・本人が組織の判断に強く反発している
といったケースでは、全構成員を対象とした一般的なハラスメント研修だけでは十分な対応が難しいことがあります。
このような場合には、本人の状況に合わせた個別研修が有効な選択肢となります。
個別研修では、単に「ハラスメントをしてはいけない」と伝えるのではなく、
1. 何が問題となったのか
2. 本人はその行動をどのように認識しているのか
3. なぜ、そのような言動が生じたのか
4. 相手にはどのように受け止められた可能性があるのか
5. 今後、具体的に何を変える必要があるのか
を本人と一緒に整理していきます。
「反省させるための研修」ではなく、「再発を防ぐために行動を変える研修」として位置付けることがポイントです。
ハラスメント案件では、人事担当者が事実確認から処分、本人への説明、被害を訴えた社員へのフォロー、職場環境の調整、再発防止まで、すべてを抱えてしまうことがあります。
しかし、行為者本人に対して、
「なぜそのような言動をしたのか」
「本人にはどのような認識があるのか」
「どのような行動パターンがあるのか」
「今後、どのように行動を変えるのか」
まで踏み込んで支援するには、専門的な知識とスキルが必要になる場合があります。
また、人事担当者が処分を決定・通知する立場にある場合、本人との間に一定の緊張関係が生じることもあります。
そのような場合には、外部の専門家を個別研修の担い手として活用することも有効です。
外部専門家であれば、組織としての判断を尊重しながらも、人事担当者とは異なる第三者の立場から本人の話を聴き、問題となった言動と今後求められる行動を整理することができます。
人事が「処分を伝える役割」を担い、外部専門家が「行動変容を支援する役割」を担う。
このように役割を分けることで、処分と再発防止を切り分けながら、組織として一貫した対応を進めることができます。
■ハラスメント対応は「処分を伝えて終わり」ではない
ハラスメント行為者への対応で最も重要なのは、本人を一方的に責めることでも、無理に「反省させる」ことでもありません。
組織として必要な判断と措置を明確に伝えた上で、本人が自身の言動を振り返り、「次はどう行動するのか」まで具体的に考えられる状態をつくることです。
処分は、必要な場合には重要な対応です。
しかし、処分そのものが再発防止になるとは限りません。
「何が問題だったのか」
「なぜそのような言動になったのか」
「今後、何を変える必要があるのか」
ここまで踏み込んで初めて、ハラスメント対応を「処分」から「再発防止」へつなげることができます。
もし、行為者本人が問題行動を認めない、指導とハラスメントの境界が難しい、過去にも同様の問題を繰り返しているなど、人事担当者だけで行動変容を促すことが難しいケースであれば、第三者による行為者向け個別研修を活用することも一つの方法です。
本人を「罰する」だけではなく、本人の行動を変え、職場環境を改善し、同じ問題を繰り返さない組織をつくる。
行為者向け個別研修は、そのための実践的な選択肢となります。