ハラスメント行為者が発覚したときの組織の初動対応
―人事担当者が押さえるべき実務ポイントー

ハラスメントの相談や申告を受けたとき、人事担当者が最初に問われるのは「ハラスメントかどうかを判断すること」ではありません。

重要なのは、相談者の安全と就業環境を確保しながら、事実を適切に確認し、相談者・行為者とされる側の双方に配慮した対応を進めることです。

初動で対応を誤ると、相談者の二次被害を招くだけでなく、行為者とされた従業員の適正な弁明機会を奪うことにもなります。また、調査前から一方を「被害者」、もう一方を「加害者」と決めつけて対応すれば、後に事実関係が異なっていた場合、組織側の対応そのものが問題となる可能性もあります。

だからこそ、人事担当者には、感情や先入観ではなく、一定の手順に沿って初動を進めることが求められます。

 

相談受付時に最も重要なのは
「判断」ではなく「安心して話せる環境」

相談を受けた段階では、まだ十分な事実確認ができていないケースが少なくありません。

そのため、相談内容を鵜呑みにすることも、反対に「その程度のことでハラスメントなのか」と否定することも適切ではありません。

まずは、相談者が安心して事実を話せる環境を整えることが重要です。

 

<相談受付時に意識したい基本姿勢>

・事実かどうかを決めつけない(鵜呑みにもしない・否定もしない)

・相談者の話を途中で遮らず、まずは最後まで聴く

・「よくあること」「気にしすぎ」「指導の範囲ではないか」など、評価や結論を急がない

・「あなたにも落ち度があったのではないか」と相談者を責めるような質問をしない

・相談したことによって、人事評価や勤務上の不利益が生じることのないよう配慮する

・誰に、どの範囲まで情報共有するのかを明確にする

・相談内容や個人情報が不必要に拡散しないよう、秘密保持に十分配慮する

 

ここで人事担当者が覚えておきたいのは、「相談を受けた=ハラスメントがあった」と決まったわけではない一方、「相談者の訴えを軽く扱ってよい」という意味でもないということです。

初動段階では、真偽の判断を急ぐよりも、相談者が安心して事実を説明できる状態をつくり、必要な情報を整理することが先決です。

初動対応で避けたい「やってはいけない対応」

人事担当者が善意で行った対応が、かえって問題を複雑にしてしまうことがあります。

特に注意したいのが、事実確認が不十分なまま、当事者に直接的な働きかけをしてしまうことです。

 

<代表的なNG対応>

・行為者とされる本人に、相談内容をそのまま伝えてしまう

・相談者に「あなたにも原因があったのではないか」と問い詰める

・「あの人がそんなことをするはずがない」と、日頃の人物評価から判断する

・「またこの人か」と、相談者の過去の言動を理由に訴えを軽視する

・上司や所属部署だけで処理し、人事・コンプライアンス部門等への適切な共有を行わない

・相談内容を興味本位で第三者に話す

・当事者同士を安易に話し合わせる

・調査が終わっていない段階で、行為者とされる人を「加害者」として扱う

・相談者に「気にしすぎではないか」「それくらいは職場ではよくある」と伝える

 

特に気を付けたいのは、「早く解決しよう」とするあまり、当事者間の調整を急いでしまうことです。

ハラスメント案件では、当事者同士の力関係や人間関係が背景にあることもあります。十分な確認をしないまま対話を促すことで、相談者が「相談したことで、かえって職場に居づらくなった」と感じる可能性もあります。

事実確認は「誰が悪いか」ではなく
「何が起きたか」を整理する

初動対応において、人事担当者が最も意識したいのが、「ハラスメントだったか」ではなく、まず「具体的に何が起きたのか」を確認することです。

例えば、「上司からパワハラを受けた」という申告があったとしても、それだけでは具体的な事実関係は分かりません。

そこで、次のような情報に分解して整理します。

 

① 相談内容を5W1Hで整理する

いつ:日時、期間、頻度

どこで:場所、オンライン・メール等の手段

誰が:行為者とされる者、相談者、同席者

何をした・言ったか:具体的な言動

どのような状況で:業務上の背景、前後の経緯

どのような影響があったか:心理面、身体面、業務上の影響など

 

「ひどい言い方をされた」「いつも嫌がらせを受けている」といった評価や感想だけで終わらせず、具体的な発言・行動・日時・場所・前後関係まで掘り下げることが重要です。

 

② 事実を記録する

相談者から聴き取った内容は、後から確認できるよう記録として残します。

必要に応じて、

・面談記録

・メール・チャット履歴

・業務上の記録

・録音・録画

・関係者からの証言

など、客観的な資料も確認します。

 

③ ヒアリングの順序と方法を検討する

一般的には、相談者から事実関係を確認した上で、必要に応じて目撃者・同席者等の関係者、最後に行為者とされる本人から話を聴くなど、調査全体の公平性を意識した進め方が重要です。

行為者とされる本人から話を聴く際には、最初から「あなたがハラスメントをした」という前提で質問するのではなく、具体的な事実について説明を求め、本人の認識や事情も確認します。

つまり、「相談者の訴えを尊重すること」と「行為者とされる側の弁明機会を確保すること」は、両立させなければならないのです。

調査と並行して「就業環境を守るための対応」を検討する

事実確認には一定の時間がかかります。しかし、調査が終わるまで何もしなくてよいというわけではありません。

相談者と行為者とされる本人が同じ職場で勤務し続けることで、相談者の心理的負担が高まったり、職場環境がさらに悪化したりする可能性がある場合には、必要に応じて一時的な措置を検討します。

例えば、

・座席や勤務場所の変更

・業務分担の変更

・指揮命令系統の一時的な変更

・必要に応じた配置上の配慮

などです。

ただし、「当事者のどちらかを異動させればよい」という単純な対応ではありません。

相談者に不利益や不公平感を与えないよう、本人の意向や業務上の必要性なども踏まえながら、慎重に検討することが必要です。

人事担当者が確認したい「初動チェックリスト」

最後に、初動対応の場面で人事担当者が確認しておきたいポイントを整理します。

 

【判断の偏りはないか】

□ 相談内容だけで「ハラスメントがあった」と決めつけていない

□ 反対に「この程度なら問題ない」と軽視していない

□ 「あの人がそんなことをするはずがない」と人物評価で判断していない

□ 「またこの人か」と相談者の過去の行動だけで訴えを評価していない

□ 好き嫌いや職場の噂によって、当事者の人物像を決めつけていない

 

【相談者への配慮はできているか】

□ 安心して話せる環境を確保している

□ 相談したことによる不利益が生じないよう配慮している

□ 相談内容を必要以上に周囲へ広げていない

□ 二次被害につながる発言や対応をしていない

□ 就業環境への影響を確認している

 

【行為者とされる側への配慮はできているか】

□ 調査が終わるまで「加害者」と断定していない

□ 本人の説明を聴く機会を確保する前提で進めている

□ 一方的な処分・指導を急いでいない

□ 調査内容や個人情報を必要以上に周囲へ広げていない

 

■初動対応で重要なのは、「早く結論を出すこと」ではない

ハラスメント相談を受けた人事担当者が抱えやすいのは、「すぐに何らかの結論を出さなければならない」というプレッシャーです。

しかし、ハラスメント対応で重要なのは、結論を急ぐことではなく、適切なプロセスを踏むことです。

相談者の訴えを軽視せず、一方で行為者とされる人物を調査前から「加害者」と決めつけない。事実を具体的に整理し、双方の話を聴き、必要な資料を確認する。このように、「相談者を守ること」と「公平な事実確認」を両立させることが、人事担当者に求められる初動対応です。

そして、事実確認の結果、職場における言動の改善が必要と判断された場合には、懲戒や配置転換だけで終わらせるのではなく、なぜその言動が問題となったのか、今後どのような行動が求められるのかを本人が理解し、行動を修正できるよう支援することも重要になります。

ハラスメント対応は、処分して終わるものではありません。

再発防止までを見据えるのであれば、行為者本人への個別研修や面談等を通じて、自身の言動を振り返り、職場での適切なコミュニケーションや指導方法を具体的に身につけてもらうことが、組織としての重要な対応の一つとなります。

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